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蝉ー1-



「お父さん、セミ取りってどこですればいいの?」
夏休みが始まって数日が経ったある日のことだった。
息子が虫取り網片手に、玄関先に立って、きらきらと瞳を輝かせている。
僕の家族が住んでいるのは、都会だ。
周りはコンクリートジャングルで、木々といえば街路樹ぐらい、さすがにそんなところで虫取り網を振り回すことはできないのだった。
近くに公園があっても、大体は遊具が点在しているだけで、蝉は少ない。
子どもが外で遊ばなくなった、といわれるようになってからひさしいけれども、周りを見て少し考えてみれば、子どもは遊ばないんじゃなくて、遊べないのだということがわかるだろう。
そんなことをしみじみと思っていたとき、僕はふと、自分が子供時代だった頃のことを思い出した。

もうずいぶん前の夏だったと思う。
子どもの頃、僕が住んでいたのは周りを見れば緑ばかりの田舎だった。
まだ、田舎の裏山で仲間達と駆け回っていた頃のこと。
あのころの記憶自体は、もう薄ぼんやりとしか残っていないのに、一つだけ、奇妙なぐらい鮮明に記憶していることがあるのだ。
戦後、高度経済成長に入り、工業が発達してきても、田舎の生活はたいして変わりはしなかった。
強いて言うなら、畑仕事にちょっとした機械を使うようになったり、テレビという娯楽が増えたぐらいだっただろうか。
木でできた昔ながらの日本家屋の我が家から、少し離れた畑をずっと歩いていくと、裏山へと続いていく。
僕の遊び場の舞台は大体がそこだった。



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初めて完結させることができた短編小説です。
学校の選択の授業で提出しました。
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# by ai_hanasaki | 2006-03-17 18:19
申し訳ないです;;
ブログで小説とか言いながら、更新は停滞、コメントを書いてくれた人へのお礼もろくに返すことができなくてすみませんでした。
管理人としての責任能力のなさを改めて自覚しました。

しかしながら、また再会してこりずに小説を載せていこうと思います。
いろいろな事情がありもともと更新は遅いのですが、一人でも多くの人に読んで頂ければ幸いです。
私の書く文章はまだ未熟すぎる卵にもなっていないようなものではありますが、批評などもいただければ嬉しいです。
# by ai_hanasaki | 2006-03-17 18:18
-その四-
「一昨日の晩のことでした。大切にしてあった一枚の写真が・・・なくなってしまいまして。」
―――写真?―――
綾は首をかしげながら成り行きを見つめた。
無くした物を探して欲しいという依頼からして、やはり『誠屋』は探偵なのだろうか。
女性のいう写真とは家族の写真らしい。
父母が早くに亡くなってしまった彼女にとって、その写真はお守りのようなものだったらしい。
二人の話は、あまり声が大きくなかったので、それぐらいしか聞き取ることはできなかった。
話が一段落すると、優はしばらく考え込むようにソファーに深くもたれた。
窓からの風が、彼のうす茶色の髪をゆらしている。

「残念ながら、ボクはお役にはたてませんよ。」
優はそう言うと、席を立った。
女性は驚いたような顔つきで彼を仰ぎ見る。
簡単な理由ですよ、と優は言った。
「この店は、探偵ではないんです。捜し物でしたら、きっと見つかりますよ。話を伺った限りでは、写真はあなたの部屋の中にあります。この店は“本当に失ってしまったもの”を取り戻す店ですから。」

女性は帰っていった。
彼女は当然のことながらすこし怒りをあらわにしていたが、優は全く気にしていないようで、普段どおりの笑みをたたえながら綾のいる奥の間へとやって来た。
「どうだい?『誠屋』がどういう店か、分かったかな?」
# by ai_hanasaki | 2005-10-16 10:10 | 誠屋
-その参-
優が奥に行ってしまってから、しばらく綾はぼーっとソファーに座っていた。
やはり聞いてはいけないことだったのだろうか。
遠くで小さい子ども達が喚声をあげている。
『誠屋』の中は、時が止まっているような、不思議な空間だった。
彼女は、なぜそんな気分になってしまうのか、壁にかけられた無数の時計を見て察しがついた。
時計は皆、それぞれが勝手な方向を指したまま止まっているのだ。
よく見ると、カレンダーもだ。
日めくり、月めくりを問わず、やはりバラバラの季節のまま止まっていた。
「なんか・・・すごい不気味・・・。」
この部屋全てが、異様だと思った。

綾はたえかねて、窓を少し開けた。
隙間風が少し頬を撫でて、ムッとした「香」の匂いが和らいだ。
夏の匂いがした。
風にのって、少しすっぱいれどもほのかに甘い匂い。
蝉の声。

突然、玄関の戸を叩く音が聞こえたのはその時だった。
音もなくすっと優が姿を現した。
「どうやらお客さんが来たみたいだ。少しの間だけ、奥の間に行っていてもらえないかな。」
そう言って、優は先ほど自身が菓子でも持ってくると言って入っていった奥を指さした。
綾は頷くと、慎重な足取りで奥の間まで歩いて行った。
「ああ、そうだ。そこの扉、少し開けてておくといいよ。」
彼女が扉に手をかけたとき、思いついたように優が言った。
「誠屋がどんなトコロなのか、見ていたらきっと、綾なら分かるよ。」
再び激しくドアが叩かれたので、優はドアの方に行ってしまった。

「随分きれいなところなんですね。」
訪ねてきたのは若い女性だった。
若いと言っても、優や綾よりは年上で、落ち着いた物腰の人だった。
そのような人があんなに激しくドアをノックしていただなんて、よほど大変なことでもあったのかと綾は思った。
女性は出された茶を一口飲むと、静かに話した。
# by ai_hanasaki | 2005-10-16 10:09 | 誠屋
-その弐-
『誠屋』の中は、外観からは想像がつかない程広かった。
何やら怪しげな「香」の匂いがたちこめ、アンティーク雑貨や家具などがあるかと思えば、ノートパソコン、小型テレビなどのひどく雰囲気に似合わないものまであった。
「驚いたよ、君がこの町にまだいたなんて。」
彼は二組のティーカップをテーブルに置いた。
「ううん。私は、この町からは遠い都市に住んでいるの。そこの大学に通っていて、ここに来るのは十年ぶり。」
綾は勧められるがままに、カップを手に取った。
少し濃いアップルティーは程よい暖かさだった。

「ボクは見てのとおり、この店の店主だよ。元々祖父の店だったんだけど、父さんも母さんも帰ってこないし。」
彼は何でもないかのようにサラリと言った。
綾と出会った頃には、既に父と母はどこかへ行ってしまった後だった。
「優が・・・店主かぁ・・・。」
綾は天井を仰ぎ見た。
小さなシャンデリアがゆらゆらと輝いている。

幼かった頃は、優が大好きだった。
初恋ではなかったし、まだ本当の恋さえ知らない頃の“好き”。
それでも、綾にとっては、この田舎町にいる間、唯一の支えだったかもしれない。
今、改めて目の前にいる優を見ても、やっぱりどこか、ドキッとするものはあった。

「ふふっ、綾も見ないうちに、なんか変わったね。」
彼の癖なのか、忍び笑いみたいな笑い方は、昔と全く変わっていない。
「それで・・・何の用事かな?ボクに会いに来たわけではないでしょ。」
優は相変わらず穏やかな物腰で言った。
綾は言うべきか、言わないべきか迷った末、重たい口を開いた。
「誠屋って・・・どんなお店なの?」

優は少し笑みを深くした。
やはり、人には言えない探偵みたいな職業なのだろうか。
「簡単なお菓子でも用意しようか。」
彼は質問には答えなかった。
静かにソファーから立ち上がると、奥の部屋に行ってしまった。
# by ai_hanasaki | 2005-10-16 10:07 | 誠屋
-その壱-
『誠屋』

それはぐずついた天気の日だった。
夏の生暖かい風を感じながら綾は歩いていた。
夏の間のわずかな休暇。
のんびりと静養するため、綾はこの田舎町に来ていた。
都会から程よく離れた山のふもとにあるこの町には、幼い頃から母に連れられ、よく来たものだった。
少し歩くと、背の高いひまわり畑が遠くに見え、そこそこ賑わった商店街に入る。

昔は、この田舎町が大嫌いだった。
友達は皆、面白そうな遊園地や海に連れて行ってもらえるけれども、綾の夏はいつもこの片田舎だった。
母はいつも、この街に来ると楽しそうだった。
そして綾を祖母に預け、どこかに行くのだ。
昼から夕方になるまで。
母が何処に行っているのか、祖母に聞いてみたこともあった。
祖母は「知らない」と、それしか言わなかった。

一度だけ、こっそり母の後をつけていったことがあった。
商店街の奥に、さびれた店があり、母はその店に入っていった。
けれども、その時、店の看板を見る前に、この田舎町で知り合った友達が声をかけてきたので、それっきりになっていた。

奥まで入っていくと、その店はそこにあった。
十年前と少しも変わらない姿で、まるでその場所だけが、違う時間の中にあるかのようだった。
はやる気持ちを抑え、看板を見上げると、『誠屋』その二文字が墨でくしゃっと描かれていた。

「何か御用で?」
不意に背後から声をかけられ、綾は飛び上がらんばかりに驚いた。
振り向くと、笑みをたたえた青年が立っていた。
そして彼は、忘れもしないあの日、『誠屋』の入り口にいた綾に声をかけた友だった。
「ええ。」
綾は頷くと、『誠屋』の扉を引いた。
# by ai_hanasaki | 2005-10-16 10:06 | 誠屋
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